税金の落とし穴

2019.03.16

配偶者居住権の創設に伴う相続税の評価対応


配偶者居住権として2018年7月に民法の相続関係の改正が成立し、 2020年4月1日から施行されます。配偶者の居住権は、被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮などから改正されたもで、2019年度税制改正では、配偶者居住権の相続税の評価の対応が定められました。

配偶者居住権の概要

配偶者が相続開始の時に被相続人が所有していた建物に居住していた場合に、配偶者は遺産分割において配偶者居住権を取得することにより、終身または一定の期間その建物に無償で居住できる制度が2020年4月1日から施行されます。

被相続人が遺贈などによって配偶者に配偶者居住権を取得させることも出来るようになります。これにより配偶者は、ご自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できることになります。

配偶者居住権の相続税の評価方法

 配偶者が取得する配偶者居住権については、被相続人が居住していた建物及びその敷地の相続税評価額を基に、将来の居住期間の年数に応じて相続税評価額を計算することになります。 また、他の相続人が取得する当該土地及びその敷地の負担付き所有権については、その配偶者居住権の評価額が減額されます。

配偶者居住権が設定された負担付き居住建物の所有権の評価方法

建物の相続税評価額(※1)×(住宅用の法定耐用年数×1.5-建築年数-居住権の存続年数(※2))÷(住宅用の法定耐用年数×1.5-建築年数)×居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(※3)

※1.相続等により取得した建物の相続税評価額は固定資産税評価額とされています。

※2.居住権の存続年数は遺産分割協議などに定められた配偶者居住権の存続期間の年数で、配偶者の平均余命年数が上限となります。

※3.2020年4月1日以後の法定利率は3%で、その複利現価は定期借地権等の評価における保証金等による経済的利益の計算や特許権、信託受益権、清算中の株式、無利息債務等の評価に使用されるものです。

居住建物の配偶者居住権の評価方法

居住建物の相続税評価額 - 上記で計算した配偶者居住権が設定された建物の所有権の相続税評価額    
 上記の通り、配偶者の権利である居住建物の配偶者居住権の評価は、建物の固定資産税評価額から上記で計算した所有権の相続税評価額を控除して求めることになります。

配偶者居住権が設定された居住建物の敷地所有権の評価方法

土地の相続税評価額 - 存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

 上記の通り、配偶者居住権が設定された居住建物の敷地所有権の評価額は、その土地の相続税の評価額に配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率を乗じて求めることになります。

 居住建物の敷地に対する配偶者居住権の評価方法

土地の相続税評価額 - 上記の敷地所有権の相続税評価額

 上記の通り、配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の相続税の評価額は、土地の相続税評価額から配偶者居住権が設定された居住建物の敷地所有権の相続税の評価額を控除して求めることになります。 なお、要件を満たしていれば、この敷地に対する配偶者居住権は小規模宅地等の特例評価の対象となります。

2019.03.15

所得税の配偶者控除の適用ができなくても扶養控除があるさ

控除対象配偶者となる人の範囲

納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には、一定の金額の配偶者控除という所得控除が受けられます。平成30年分以後は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は受けられなくなりました。親族に控除対象扶養親族がいる場合は扶養控除という選択肢があるケースがあります。

控除対象配偶者とは、その年の12月31日の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人です。

・ 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。

・ 納税者と生計を一にしていること。

・ 年間の合計所得金額が38万円以下であること。

(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

・青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

扶養親族に該当する人の範囲

扶養親族とは、納税者の親族(配偶者を除きます。)や児童福祉法の規定により里親に委託された児童(いわゆる里子) 及び老人福祉法の規定により養護受託者(老人を自己のもとで預かって世話をすることを希望する人)に委託された老人で 平成30年12月31日(年の途中で死亡した人については、その死亡の日)現在で生計を一にする人であって、 平成30年中の合計所得金額が38万円以下の人をいいます。

納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えている場合の控除

配偶者控除の対象配偶者は、同一生計配偶者のうち、合計所得金額が1,000円以下の納税者の配偶者をいいます。納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除の適用はありません。

そこで、親族に控除対象扶養親族がいる場合は扶養控除という下記の選択肢があるケースがあります。

納税者本人が2人以上いる場合の扶養控除

生計を一にする納税者が2人(例えば父と長男いずれも所得金額が1,000万円超の場合)以上いるときの扶養控除は、そのすべての扶養親族(例えば母と長男の妻いずれも所得金額が38万円以下)につての扶養控除を1人の納税者の所得から差し引いても、扶養親族(母と長男の妻)を分けてそれぞれの扶養控除(例えば父は長男の妻、長男は母)をそれぞれの納税者(例えば父と長男)の所得から差し引いてもよいことになっています。

上記のケースでは、所得金額が1,000万円を超えている父と長男は母と長男の妻を対象とした配偶者控除の適用ができなくても、父は長男の妻を対象として長男は母を対象とした扶養控除を適用して申告書等に記載することになります。条文に従って申告したら、今年はこんなことになってしまいました。

2016.09.10

所得税の配偶者控除を見直して夫婦控除に移行案が浮上

所得税の配偶者控除の見直しなど、首相の諮問機関である政府税制調査会が昨日9日に約4カ月ぶりに開催されました。
なお、夫婦控除の導入案の前に現行の配偶者控除の要件など配偶者特別控除の要件などについては、それぞれのページで確認して下さい。

1.配偶者控除の見直しと夫婦控除の導入案浮上

専業主婦世帯などの所得税額を軽減している所得税の「配偶者控除」を見直す検討に本格的に着手しています。配偶者の働き方や年収を問わない「夫婦控除」の導入が有力な見直し案となっています。配偶者控除の見直しにより、税収は大幅に減少する可能性があるため、政府は課題となる財源確保の検討も本格化することになります。課題となる税収減の抑制策として夫婦控除などの所得制限が浮上していますが、負担増となる世帯の理解が得られるかが課題となります。

2.現行の配偶者控除と見直しの方向性と論点の整理

現行の配偶者控除は、例えば配偶者の給与収入が年103万円以下の場合に適用されます。給与所得者の年末調整に向けてパートで働く主婦らがその配偶者控除に合わせて労働時間を抑えるといういわゆる年末時間調整「103万円の壁」をなくす狙いも込めて、首相が2014年に見直しの検討を指示していました。そこで政府税調では、これまでの論点整理で夫婦控除や高所得者に限って配偶者控除を廃止する案などを示していました。
増加する共働き世帯に配慮し、夫婦控除へ転換する案を軸に、11月ごろには見解を取りまとめる方向のようです。総会に出席した安倍晋三首相は「女性が就業調整を意識せずに働けるようにする」と述べ、検討を進める考えを表明したと報じられています。
政権の掲げる「働き方改革」と連動させて女性の就労を後押しする狙いですが、専業主婦世帯の負担が増す可能性もあり、具体的な改革案を固められるかは流動的です。

3.基礎控除の扱いも焦点に所得控除方式の見直し議論へ

与党も議論を進める予定で、自民党の宮沢洋一税制調査会長は2017年度の税制改正での実現に意欲を示しているそうです。
所得税を巡り政府税調は他の所得控除を含め、高所得者ほど有利な「所得控除」方式の見直しを議論する模様です。
全ての人の所得税に適用される基礎控除の扱いも焦点となります。高所得者ほど減税の効果が大きいため、所得控除を段階的に縮小したり、減税額を一定にする「税額控除」に変更したりすれば財源を賄えるとしています。

4.夫婦控除を2017年度税制改正大綱に盛り込み関連法の改正へ

自民党の茂木俊充政調会長は「専業主婦世帯などの所得税額を軽減する配偶者控除の見直し議論を巡り、配偶者の働き方や年収を問わない夫婦控除に移行すべきだ」との考えを示しています。さらに「夫婦控除」に移行する場合の控除方式に関しては、所得税額を算出する前に課税対象の所得を小さくする「所得控除」ではなく、所得税額の算出後に差し引く「税額控除」方式を検討すべき認識も表明しています。
高所得者ほど有利な「所得控除」方式の見直しにより、低所得者により税負担の少ない制度を目指して2017年度税制改正大綱に「夫婦控除に移行」を盛り込み、来年の通常国会で関連法の改正を目指す意向です。

2016.08.22

気になにませんか?相続税の調査の選定基準(新)2016年

相続税も申告されたものがすべて調査されるわけではありませんが、事前の調査の中から不審があれば実地の調査が行われます。
平成27年1月1日からの相続税の課税ベース拡大により、相続税の申告件数が増加傾向にあるといいます。これを踏まえ国税当局では、平成29事務年度(H29.7~H30.6)以降に実地調査の選定基準等を含め審理事務を見直すための検討作業に着手しているそうです。いままで以上に調査の対象事案を厳選することによって、より効率的・重点的な調査が行われることになるようです。

1.平成27事務年度に新基準での調査選定を試行済み

相続税の課税ベース拡大で申告件数が増加する一方、国税当局全体の職員、ひいては資産課税部門の職員数は横ばいのようです。
国税当局は、相続税の申告審理事務量の増加の抑制、及び調査の対象事案を“厳選”するため、調査対象となるかを判断する選定基準の改正を含め審理事務を見直すこととしています。
この見直しに先立ち、平成27事務年度(H27.7~H28.6)において、試行的に新たな調査選定基準(新基準)に該当する調査対象事案の選定が行われました。

2.全国17署での試行を指示し実施済み

施行された新基準に該当する調査対象事案の選定は、原則、資産課税部門のなかで1部、2部など複数の部門がある中規模以上の税務署で行われました。国税庁は全国17署での実施を各国税局等に指示し、具体的に実施する署は各局等が選びました。東京国税局では3税務署、大阪・名古屋・関東信越国税局では、それぞれ2税務署、それ以外の局等では各1税務署ですが、国税局等によっては指示された数以上の署で新基準の施行を実施したこともあり得るようです。

3.新基準による判定結果を4つに区分

新基準に基づく調査選定の試行において、その新たな基準に沿って事案を判定した結果を「実調」、「事後」、「非課税」、「省略」の4つに区分するそうです。以下の(2)~(4)の3つについては新基準に該当しないことになります。
この新基準については、いわゆる超富裕層PT(一定の富裕層に対し特別な管理体制を敷くプロジェクトチーム)でいう“形式基準”や“実質基準”のような保有する資産の見込額などといった、一定の指標が設けられていることが考えられます。

(1)実調(新基準に該当)

「実調」に区分された事案は新基準に該当するものとして、実地調査又は机上調査のいずれかに着手する流れとなります。

(2)事後(納税者に接触)

「事後」は納税者へ何らかの形で接触する流れとなります。

(3)非課税(税額なし)

「非課税」は税額なしとなる区分です。

(4)省略(調査なし)

「省略」は税務調査なしの流れとなります。

4.平成28事務年度には新基準の試行に基づく調査

平成27事務年度に選定した新基準に該当する調査対象事案については、基本的には、平成28事務年度(H28.7~H29.6)において実地調査又は机上調査を実施するそうです。この結果を踏まえて、平成29事務年度“以降”に全国において、新基準の導入が予定されています。具体的な導入時期は未定のようです。また、試行の結果によっては、今回施行された新基準等の内容を変更することなどもあり得るようです。

5.調査の厳選するも必要事案は漏れなく選定

今回の相続税の調査選定基準の見直しは、調査対象事案を“厳選”するためのものです。“厳選”することが、調査対象事案に該当する基準そのものを引き上げるものであれば、その影響としてより大口・悪質事案に調査の重点が置かれ、調査件数が今よりも減少することが考えられます。
しかし、ここでいう“厳選”とは、あくまで調査が必要な事案をより効率的に漏れなく選定するためのもので、必ずしも大口・悪質事案により調査の重点が置かれるということにはならない様です。
税務署では相続発生のずっと前より、被相続人に関する膨大な資料を蓄積しており、それらと申告内容とを照らし合わせたうえで、総合的な確認作業を行うために調査を行います。単に税務署に提出された相続税申告書の内容確認のためだけに、税務調査が行われるというわけではないのです。

2016.08.09

どうなる消費税の税率引上げ適用時期の変更に伴う税制上の改正措置

政府与党は、消費税の税率引上げ時期の変更に伴う税制上の改正措置を正式決定しました。住宅ローン減税、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置など所得税・贈与税への影響も気になります。これは税制改正大綱に相当するもので、例年の与党税制改正大綱と同様で「基本的考え方」と「具体的内容」の二部構成となっています。消費税率10%への引上げ及び軽減税率制度の導入を平成31年10月に2年半延期するとともに、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入を平成35年10月に延期することが柱となっています。ほとんどの措置は、税率引上げ延期に伴う適用時期の変更ですが、「税額計算の特例」については、内容を変更し、大規模事業者の適用を認めないこととしました。
この他関連措置として「転嫁対策」「総額表示義務の特例」及び「住宅ローン減税の拡充措置」の適用期限延長、「住宅取得等資金贈与の特例」の非課税枠を上乗せする期間の延期なども行われます。これを踏まえ、政府は秋の臨時国会に関連法案を提出するようです。

1.消費税の税額計算の特例は中小事業者に限定

ほとんどが消費税の税率引上げ延期に伴う適用時期の変更ですが、消費税の税額計算の特例については、内容を変更している点にも注目しましょう。

(1)消費税率10%への引上げ時期の変更

消費税率10%への引上げの「施行日」を平成31年10月1日に、請負工事等に係る適用税率の経過措置の「指定日」を31年4月1日としました。

(2)軽減税率制度の導入時期の変更

消費税率の引上げ時期の変更に伴う措置として、「軽減税率制度」の導入時期を31年10月1日に延期することとしています。

(3)消費税の税額計算の特例の適用についての変更

これを踏まえて軽減税率制度の導入後の一定の間は、区分経理が困難な事業者を対象に適用を認めることとしていた「税額計算の特例」の適用時期も2年半延期されます。
さらに特例の適用は中小事業者に限定されます。システム整備が間に合わない場合を想定して、1年間に限り、大規模事業者も特例の適用を可能としていましたが、「軽減税率制度」の導入時期の延期を踏まえ、適用を認めないことと変更されます。

2.適格請求書発行事業者の登録時期の延期

いわゆるインボイス制度の導入時期が平成33年4月1日から延期されるか否かに注目が集まっていましたが、平成35年10月1日まで2年半延期することとしました。これに伴い、適格請求書発行事業者の「登録」についても申請受付開始を平成33年10月1日に延期されます。
また、インボイス制度の導入後も6年間は、免税事業者からの仕入税額控除を一定割合認めることとしていましたが、この経過措置の実施時期も変更されます。平成35年10月1日から平成38年9月30日までは仕入税額相当額の80%、平成38年10月1日から平成41年9月30日までは同50%の控除ができることとしました。

3.総額表示義務の特例の延長

消費税転嫁対策特別措置法の適用期限(平成30年9月30日)を平成33年3月31日まで2年半延長することとしました。
同法では、「現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」を講じていれば税込価格を表示することを要しない「総額表示義務の特例」が認められています。

4.どうなる住宅ローン減税、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置

税率引上げ時期の延期(増税延期)を踏まえて、反動減対策も以下のように延期されます。

(1)住宅ローン減税等の適用期限の延長

住宅ローン減税(10年間合計で最大500万円の税額控除)等の適用期限(平成31年6月30日)を平成33年12月31日まで延長することとしました。

(2)住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の延長

住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置については、消費税率引上げの反動減対策としまして、平成28年10月以降、10%の税率が適用される住宅について非課税枠を上乗せし、3,000万円まで拡大(31年6月末まで段階的に縮小)することとしていましたが、この「上乗せ非課税枠」の適用期間を「平成31年4月1日から平成33年12月31日」まで2年半延長されます。
一方、現行1,200万円の非課税枠については、平成33年12月31日まで2年半延長されます。

(3)地方法人課税の偏在是正に係る措置の延期

地方税では、法人住民税法人税割の引下げなど、消費税率10%段階の地方法人課税の偏在是正に係る措置の施行日を平成31年10月1日に延期されます。

2016.08.02

どうなる相続人が家なき子の場合の空き家の譲渡特例と小規模宅地等特例の併用

相続人がいわゆる「家なき子」で相続により生じた空き家を改修して相続税申告期限後に被相続人居住用家屋等を譲渡した場合に、譲渡所得の特別控除を適用する特例が平成28年度税制改正により創設されました。ところで、その空き家に係る譲渡所得の特例と小規模宅地特例の適用関係が気になりませんか?この特例は、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡した場合に適用されます。

1.譲渡所得の特例

平成28年度税制改正により創設されました「空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の特例」の適用要件は、次のとおりです。
その対象財産について、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等としており、相続開始から譲渡の時まで事業、貸付、居住の用に供されていたことがないことを必要としています。

2.小規模宅地の特例との併用について

相続税における小規模宅地等の特例との適用関係については特に排除されておらず、特定居住用宅地等の適用要件を満たす「家なき子」に該当する場合には、措法69の4③二ロにより、特定居住用宅地等の適用対象となり、相続税の申告期限まで被相続人居住用家屋等を所有等すれば本特例を併用できることとなります。

3.小規模宅地特例は申告期限まで所有要件

本特例では、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋及びその敷地等が対象であることから、相続の場面において、小規模宅地等の特例における被相続人の特定居住用宅地等に該当するか否かが気になるところです。
本特例については、措法35①③等により税法上、小規模宅地等の特例の適用を受けた者を排除する規定は設けられていません。

(1)小規模宅地等の特例における要件とは

小規模宅地等の特例において、特定居住用宅地等として330㎡まで80%の評価減の対象となる宅地等の要件は、次のとおりです。被相続人の配偶者が相続等で取得したもの、あるいは、①相続開始の直前において同居していた親族で、申告期限までに所有・居住していること、②配偶者も同居親族もいない場合、相続開始前3年以内に持家に居住したことがない親族が申告期限まで所有していること、③被相続人と生計を一にしていた親族で、申告期限までに所有・居住していることのいずれかの要件に該当する親族が取得したものとされています(措法69の4③二)。

(2)特例の併用に関する注意点

本特例では、相続開始から譲渡の時まで事業、貸付、居住の用に供されたことがないという要件がありますので、小規模宅地等の特例の適用対象と重なるのは、居住要件を求めない前述②のいわゆる“家なき子”が相続等をする場合の特定居住用宅地等に該当するケースに限られそうです(措法69の4③二ロ)。この場合には、相続税の申告期限まで所有を続ける必要がある点に留意してください。

4.相続と譲渡のまとめ

したがって、相続の場面では、小規模宅地等の特例の“家なき子”が相続開始から相続税の申告期限まで被相続人の居住用宅地等を所有するなど要件を満たせば、80%評価減の適用対象となります。また、譲渡の場面では、その家なき子が相続税の申告期限後、耐震改修又は除却等をした空き家に係る敷地等を一定期間内に譲渡する場合も、空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の特例についても適用を受けることが可能ということになります。

2016.07.12

なぜ死亡退職金・弔慰金に相続税が課税されるのか

本来の相続財産ではない死亡退職金・弔慰金に、なぜ相続税が課税されるのか疑問をお持ちの方に、3つのポイントを説明しています。
1, 被相続人の死亡により取得する退職手当金等は、被相続人の雇用主から相続人等に直接支給されるものであるから本来の取得財産に該当しないこととなります。
2. しかし、被相続人が死亡の直前に退職手当金等の支給を受けている場合には、その退職手当金等は何らかの形で被相続人の遺産に含まれて、相続税の課税対象となり、相続税の課税を受けることとなります。
3. そこで相続税法では、被相続人の死亡による退職手当金等はその取得者にとって本来の取得財産と同様の財産利益をもたらし、また生前退職の退職金の相続財産への残留に対する相続税課税との均衡を図るため相続又は遺贈により取得したものとみなして相続税の課税財産としています。

1.相続財産とみなされる退職手当金等とは

被相続人の死亡により相続人その他の者が被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合には、その給与の支給を受けた者について、その支給を受けた給与の額を、その者が相続人であるときは相続により取得したものとみなし、相続人以外の者であるときは遺贈により取得したものとみなします。
なお、ここで「3年以内に支給が確定したもの」とは、支給すべき金額が確定したことをいいます。

2.相続税が課税される死亡退職金の見分け方

(1)相続財産とみなされる退職金とは

退職手当金等とは、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与のことをいいます。退職手当金等は、その名義のいかんにかかわらず実質上被相続人の退職手当金等として支給される金品をいい、金銭だけではなく、現物で支給されるものも含まれます。

(2)課税されるか判定するちょっとしたコツ

被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける金品が退職手当金等に該当するかどうかは、その金品が退職給与規程その他これに準ずるものの定めに基づいて受ける場合においてはこれにより、その他の場合においては、その被相続人の地位、功労等を考慮し、その被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業におけるその被相続人と同様な地位にある者が受け、又は受けると認められる額等を勘案して判定することとされています。

3.どこまでが退職手当金等に該当するのか

(1)退職手当金等に該当するものとは

企業は、従業員等が退職した場合には就業規則や退職給与規程により従業員等に対して退職金を支給しますが、その資金を社内資金により調達するほか、生命保険会社や信託銀行などに生命保険契約や信託契約により資金を積み立て、従業員の退職金資金を準備することがあります。

(2)生命保険契約などにより支給される場合

そして、被相続人の死亡退職に対して社内資金のほか生命保険会社や信託銀行から退職手当金が支給されますが、この生命保険契約など一定の契約により支給される退職手当金等は相続又は遺贈により取得した退職手当金等とみなすこととされています。

2016.06.28

相続税における生命保険金の取扱い注意点

相続税においては生命保険金を取得した場合に、その生命保険金を取得した者が相続を放棄した者及び相続権を失った者を含まない相続人であるときは相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは遺贈により取得したものとみなして相続税の課税財産としています。
被相続人の死亡により相続人その他の者が取得した生命保険契約等の保険金は、被相続人の死亡による生命保険契約等の保険事故により保険金受取人がその契約に基づき原始的に取得するものであり、民法の規定による相続又は遺贈により取得するものではなく、生命保険契約の効力の発生により取得するものです。したがって、この保険金は、被相続人の財産を構成するものではありませんが、この保険金受取人については、被相続人の死亡を原因として、その保険金額に相当する経済的利益を取得することとなるので、相続税法においては被相続人の負担した保険料に対応する保険金について税負担の公平を図るために相続又は遺贈により取得したものとみなして課税財産としています。
本来の相続財産ではない死亡保険金を相続財産とみなして課税価格に算入する際の生命保険金の非課税限度額は、死亡退職金と同じくそれぞれ500万円×法定相続人の数で計算します。
相続人一人一人に課税される金額は、こちらに掲載しています。

1.相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等

被相続人(遺贈者を含みます。)の死亡により相続人その他の者が取得した生命保険契約(これに類する共済に係る契約を含みます。)の保険金(共済を含みます。)又は偶然な自己に基因する死亡に伴い支払われる損害保険契約(これに類する共済に係る契約を含みます。)の保険金を取得した場合において、被相続人がその保険料(共済掛金を含みます。)の全部又は一部を負担しているときは、その保険金受取人(共済金受取人を含みます。)について、その取得した保険金額に被相続人が負担した保険料の金額が被相続人の死亡の時までに払い込まれた保険料の金額のうちに占める割合を乗じて計算した金額を、その保険金受取人が相続人である場合には相続により取得したものとみなし、相続人以外の者であるときは、遺贈により取得したものとみなすこととされています。相続税の課税対象額を算式に表すと次のようになります。
取得保険金額×(被相続人が負担した保険料の金額÷被相続人の死亡時までに払い込まれた保険料の全額)
なお、相続税基本通達3-7によれば相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等は、被保険者(被共済者を含みます。)の死亡(死亡の直接の基因となった傷害を含みます。)を保険事故(共済事故を含みます。)として支払われるいわゆる死亡保険金(死亡共済金を含みます。)に限られます。被保険者の傷害(死亡の直接の基因となった傷害を除きます。)、疾病その他これらに類するもので死亡を伴わないものを保険事故として支払われる保険金(共済金を含みます。)又は給付金は、当該被保険者の死亡後に支払われたものであっても、これに含まれないのであるから留意することとされています。
さらに、相続税基本通達3-7注意書きによれば、被保険者の傷害(死亡の直接の基因となった傷害を除きます。)、疾病その他これらに類するもので死亡を伴わないものを保険事故として支払われる次に掲げる(1)(2)の保険金又は給付金は、その被保険者の死亡後に支払われた場合には、被保険者たる被相続人の本来の財産として相続税の課税財産となり、保険金の非課税の対象外としてその全額が課税対象となります。
(1)被保険者の傷害(死亡の直接の基因となった傷害を除きます。次の(2)において同じ。)又は疾病を保険事故とする旨の特約のある生命保険契約において、これらの保険事故が発生して支払を受ける保険金又は給付金
(2)傷害を保険事故として支払われる後遺傷害保険金又は医療保険金
すなわち、相続又は遺贈により取得したものとみなされる保険金は、保険契約に基づいて保険事故の発生により保険金受取人が原始的に取得した保険金請求権を被相続人から相続又は遺贈により取得したものとみなします。

2.保険金受取人が取得した保険金で課税関係が生じない場合

相続税基本通達3-38によれば、保険金受取人の取得した保険金の額のうち、生命保険契約に関する権利に対する課税の規定により保険金受取人が生命保険契約に関する権利を相続又は遺贈により取得したものとみなされた部分に対応する金額又は自己の負担した保険料の金額に対応する部分の金額については、相続又は遺贈により取得する財産とはならないで、所得税の一時所得又は雑所得として課税対象となります。

3.生命保険金等の受取人についての注意点

相続税基本通達3-11によれば、相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等における「保険金受取人」とは、その保険契約に係る保険約款等の規定に基づいて保険事故の発生により保険金を受け取る権利を有する者(保険契約上の保険金受取人)をいうものとするとしています。指定受取人がないときには、商法、旧簡易生命保険法、保険約款等の定めにより判断すべきものとされています。例えば、被相続人が保険金受取人となっている場合において、被相続人の死亡を保険事故とするものについて指定受取人がいないときには、団体定期普通保険約款では被保険者の配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹の順位により保険金受取人となり、また旧簡易生命保険法では被保険者の遺族が保険金受取人とされていました。
保険金受取人について、保険証券に記載されている保険金受取人と実際に保険金を取得した者が異なる場合があります。このため相続税法において「保険金受取人」とは保険証券に記載されている形式的な名義人をいうのか、それとも名義人にこだわらないで実質的な受取人をいうのかが問題となります。
相続税基本通達3-12によれば、保険契約上の保険金受取人以外の者が現実に保険金を取得している場合において、保険金受取人の変更の手続がなされていなかったことにつきやむを得ない事情があると認められる場合など、現実に保険金を取得した者がその保険金を取得することについて相当な理由があると認められるときは、上記にかかわらず、その者を相続若しくは遺贈により取得したものとみなす場合の保険金受取人とするものとしています。

4.生命保険金等とともに支払を受ける剰余金等

相続税基本通達3-8によれば、相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等には、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金及び払戻しを受ける前納保険料の額で、当該保険契約に基づき保険金とともに当該保険契約に係る保険金受取人(共済金受取人を含みます。)が取得するものを含むものとして取り扱っています。

5.契約者貸付金等がある場合の生命保険金等

相続税基本通達3-9によれば、保険契約に基づき保険金が支払われる場合において、当該保険契約の契約者に対する貸付金若しくは保険料の振替貸付けに係る貸付金又は未払込保険料の額(いずれも元利合計金額とします。)があるため、当該保険金の額から当該契約者貸付金等の額が控除されるときの相続又は遺贈のみなし規定の適用については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次によるとされています。

(1)被相続人が保険契約者である場合

保険金受取人は、当該契約者貸付金等の額を控除した金額に相当する保険金を取得したものとし、当該控除に係る契約者貸付金等の額に相当する保険金及び当該控除に係る契約者貸付金等の額に相当する債務はいずれもなかったものとします。

(2)被相続人以外の者が保険契約者である場合

保険金受取人は、当該契約者貸付金等の額を控除した金額に相当する保険金を取得したものとし、当該控除に係る契約者貸付金等の額に相当する部分については、保険契約者が当該相当する部分の保険金を取得したものとします。

2016.06.17

相続税における葬式費用の債務控除

相続税では被相続人に係る葬式費用についても被相続人の債務のほかに債務控除を適用します。債務控除の適用対象者は、下記1の通り、相続又は遺贈により財産を取得した者が無制限納税義務者で相続人と包括受遺者に限られます。
葬式費用は本来被相続人の債務ではないですが、相続の開始により必然的に生ずるものであり相続財産から支弁されるものともいえるところから、相続税法においては、被相続人の債務と同様に債務控除の対象とし、控除の対象となる葬式費用は、被相続人が死亡してから納骨するまでの費用のうち下記2(1)に掲げる葬式費用となります。

1.葬式費用について債務控除の適用対象者

相続又は遺贈により財産を取得した者が、いわゆる無制限納税義務者である場合には、被相続人の債務のほかに被相続人に係る葬式費用についても債務控除を適用することとされています。無制限納税義務者が相続又は遺贈により取得した財産のすべてについて相続税の納税義務を負うのに対して、制限納税義務者は相続又は遺贈により取得した財産のうち法施行地にあるものだけについて相続税の納税義務を負うこととなっているため、制限納税義務者の債務控除は、相続税が課税される財産によって担保される債務に限られ、葬式費用の控除は制限納税義務者については認められていません。さらに債務控除の適用対象者は、相続人と包括受遺者に限られています。
したがって相続放棄をした者やもともと相続権のなかった者については、債務控除の適用はありません。もっとも、相続放棄とは、財産と債務の承継をしないという法的手続であり、また、相続権のない者が被相続人の債務を承継することはあり得ないことから、これらの者に債務控除の規定を適用しないこととしたのは、当然のことであります。
例えば、内縁の妻は相続権者でないことは明らかであり、はじめから債務控除の適用はないことになります。

2.債務控除の対象となる葬式費用

債務控除の対象となる葬式費用について、相続税法は何が債務控除の対象となる葬式費用に該当するのかを何ら規定していませんが、一般的に葬式費用は死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)であるといわれています。しかしながら、葬式は宗教やその地域の慣習によりその様式が異なりますから、結局のところ個々の事案について社会通念に即して判断せざるを得ないことになります。

(1)課税実務における葬式費用の取扱い

相続税法基本通達13-4により、相続税の課税実務においては葬式費用として控除する費用の範囲については次の通り取扱います。
①葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨または遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うもにあっては、その両方の費用)
②葬式に際して施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
③葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うもの
④死体の捜索または死体若しくは遺骨の運搬に要した費用

(2)債務控除の対象とならない葬式費用

相続税法基本通達13-5により、仏具代、香典返戻費用や初七日、四十九日法要費用など
法会に要する費用など次に掲げる費用は葬式費用としては取り扱わないとしています。
①香典返礼費用
②墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
③法会に要する費用
④医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用

3.債務控除の対象となる葬式費用の負担者について

これらの葬式費用を誰が負担すべきかについてですが、そもそも追悼儀式としての葬式を行うか否か、それを行うにしても、その規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、葬儀の主宰者(もっぱら喪主である追悼儀式の主宰者)がその責任において決定し、実施するものということができますから、葬儀の主宰者がその費用を負担すべきものと考えられます。他方、最高裁平元.7.18第三小法定判決によれば、祭祀の承継者(遺骸または遺骨の所有権は民法897条に従って慣習上、祖先の祭祀を主宰すべき者)に帰属するものということができますから、その管理、処分に要する費用も祭祀承継者が負担すべきものといえます。
そうすると、最高裁平24.3.29最高裁判決によれば、追悼儀式に要する費用については、自己の責任と計算において、追悼儀式を準備し、手配等して挙行した者である葬儀の主宰者が負担し、一方、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担すべきものと考えられます。
ところで、相続税における債務控除は、被相続人の債務及び葬式費用の金額を相続または遺贈により取得した財産の価額から控除するものですが、このうち葬式費用は、もともと被相続人の債務ではありませんから、相続または遺贈により財産を取得した者が本来の相続または遺贈との関連において負担する性質のものではなく、喪主をはじめとする被相続人の遺族や関係者が負担するのが社会通念であるといえます。
実際問題として、葬式費用を相続を放棄した者や相続権を失った者あるいは相続権のない内縁の関係にある者が遺族の一人として、負担することがあります。そして、相続税法13条1項は、その括弧書きにおいて、債務控除することができる者を
①相続により財産を取得した者、
②相続人と同一の権利義務を有する包括遺贈(民法990)により財産を取得した者及び
③被相続人から相続人に対する遺贈により財産を取得した者に限定しています。
そうすると、相続を放棄した者、相続権を失った者及び相続権のない内縁関係の者は、いずれも、上記①ないし③の者に該当しませんから、相続税法第13条の規定の適用はないことになります。
しかし、このうち相続を放棄した者及び相続権を失った者については、もともと相続人であった者であり、これらの者が祭祀承継者であるケースも考えられますから、相続税法基本通達13-1により、課税実務においては相続を放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合には、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することを認める取扱いをしています。
ところで、内縁は、社会一般には夫婦としての実質をもちながらも、婚姻の届出を欠いているために法律上の夫婦と認められない関係をいい、同居、協力及び扶助の義務(民法752)や婚姻費用の分担(民法760)、日常の家事に関する債務の連帯責任(民法761)などの民法の婚姻に関する諸規定が類推適用され、また、厚生年金保険法や国家公務員災害補償法などの特別法上も、内縁関係の者に社会保険や社会保障の受給資格を認める扱いがされています。
その一方で、配偶者相続権、姻族関係、成年擬制などの画一的に処理されるべき法律効果については、内縁関係について認められておらず、相続税の課税上も、現在のところ、内縁関係にある者が葬式費用を負担したとしても、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することを認める取扱いはされていません。

2016.05.26

相続税の債務控除のしくみ

相続税の債務控除の対象となる債務は、被相続人の債務を相続人が引き継いだ場合に、原則として相続の際に現に存し、かつ、確実と認められるものに限り、相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から控除することができる制度です。
相続税は、正味財産に課税されますので、相続開始時に現に存する被相続人の債務で、確実なものについては、原則としてその債務額を相続により取得した財産の額から控除することができます。
債務控除の制度が適用される人は相続人と包括受遺者に限定されているため、相続を放棄した者は相続人には含まれませんので、相続を放棄した者が遺贈を受けていても、相続を放棄した者が負担した債務の額を遺贈を受けた財産の価額から控除することはできませんので注意が必要です。

1.債務が確実であるという債務控除の要件

相続税の債務控除の対象となる債務は、その債務が確実である必要がありますが、必ずしも書面の証拠があることを必要とするものではなく、債務の金額が確定していなくても、その債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況により確実と認められる範囲の金額については、債務として控除することができます。しかし実際問題として書面等がまったく存在しない場合に債務の確実性とその債務の額を立証することは、相当に困難を極めますので具体的な証拠資料を用意していただくことが有効です。
債務控除をすることができる債務の具体的な例としては、借入金債務、未払いの公共料金や医療費、預かり保証金などがあります。一方、被相続人の債務であっても、墓所霊びょう等の非課税財産の取得や維持または管理のために生じた債務は控除することができませんので注意が必要です。
また、被相続人の保証債務については、原則として債務控除の対象とはなりませんが、保証債務のうち、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、その保証債務者の債務として控除することができます。連帯債務については、連帯債務者のうちで債務控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかとなっている場合には、その負担金額を控除することができます。

2.債務控除を適用できる者の要件

債務控除の規定が適用される者は、相続人と包括受遺者に限定されており、相続放棄した者は、相続人には含まれませんから、相続放棄した者及び相続権のない者については、相続税法13条に規定する債務控除はできないとになります。
したがって、相続を放棄した者は、遺贈を受けた財産について相続税の課税対象となる場合であっても、医療費などの被相続人の債務の負担額を遺贈を受けた財産の価額から控除することはできませんので注意が必要です。。
ただし、相続放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、その負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することができます。

3.控除不足となる場合の債務控除の取扱い

債務控除で引ききれないマイナス分が発生した場合に債務を負担していない他の共同相続人の課税価格から差し引くこと及び加算された贈与財産の価額から差し引くことは、いずれもできませんので注意が必要です。
(1)相続税法13条1項の規定により、相続または遺贈により取得した財産に係る相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の債務等の金額のうち、当該財産を取得した者の負担に属する部分の金額を控除した金額によることとされています。この規定でいう「その者の負担に属する部分の金額」とは、相続税法基本通達13-3によれば、相続または遺贈によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうものと解されます。これらの者の実際に負担する金額が確定していないときには、民法900条から902条までの規定による相続分または包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱うこととされています。これは、未分割の財産については、相続税法上、民法の規定による相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することとされており、債務等についてこれと同様の計算方法を認めたものと解されます。
共同相続人または包括受遺者がその者の相続分または包括遺贈の割合に応じて被相続人の債務を負担することとした場合の各金額が、共同相続人または包括受遺者が、相続または遺贈により取得した財産の価額を超えることとなる場合に、その超える部分の金額を、他の共同相続人または包括受遺者の相続税の課税価格の計算上、控除することとして申告があったときは、これを認めることとして取り扱われています。
実際に負担する金額が確定していない段階においては、債務等の超過分を相続税の課税価格の計算上切り捨ててしまうとすれば、課税の公平の観点から相当でないと考えられることから、他の共同相続人の相続税の課税価格の計算においても控除することを認めたものと解されています。
(2)平成22年3月15日の国税不服審判所裁決によれば、上記通達13-3の場合において、共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いるときに、それぞれの者が任意に債務等超過分を自己の相続税の課税価格の計算上控除して申告できることまで許すとすると債務等超過分が重複して控除されることになり、この取扱いはそのような重複控除までをも認める趣旨のものとは解されませんので共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合には、これらの者の間において債務等超過分をどのように配分するかについての合意がなされていることが前提になっているものと解されています。これはあくまでも、相続財産の分割や債務負担の合意がされておらず、これらが最終的に決定されるまでの過渡的な状況で発生した債務等超過分を相続税の課税価格の計算上切り捨ててしまうことを避ける趣旨のものであって、相続財産の分割や債務負担の合意が確定した場合に、相続財産の価額を超えて債務を負担することとなった者の債務超過分を、他の共同相続人または包括受遺者の課税価格から控除することを認める趣旨のものではなく、その旨を定めた法令の規定はありませんので、仮に、共同相続人や包括受遺者の中に、相続財産の価額を超えて債務を負担することとなった者があったとしても、その者の債務超過分を、他の共同相続人や包括受遺者の相続税の課税価格を計算するに当たって控除することはできませんので注意が必要です。
(3)相続税法13条により、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の公租公課を含む債務で相続開始の際現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用の金額のうち、その者の負担に属する部分の金額を控除した金額によるとされています。
(4)相続税法19条により、相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額について、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして、遺産に係る基礎控除、相続税の総額、各相続人等の相続税額及び相続税額の2割加算の各規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とするとされていますので、まずは、贈与加算する前の相続財産の価額から被相続人の債務を控除した金額を、相続税の課税価格に算入すべき価額とし、これに生前贈与財産の価額を加算したものを、相続税の課税価格とみなして相続税額を算定することになります。
(5)債務控除は上記(3)(4)により、、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額を加算する前の課税価格から行うことになりますので、仮に、相続人が負担することとなった債務の額が、相続により取得した財産の価額を超えることとなったとしても、結果として、その超える部分の金額を他の共同相続人の相続税の課税価格の計算上、控除することはできないことになります。

4.債務控除の参考法令一部抜粋

相続税法第13条(債務控除)

相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
2 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第一項第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 その財産に係る公租公課
二 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
三 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務四 その財産に関する贈与の義務
五 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
3 前条第一項第二号又は第三号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前二項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第二項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。

相続税法第14条

前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。
2 前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税、地価税、再評価税、登録免許税、自動車重量税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税及び印紙税その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする。

相続税法基本通達3-1(「相続を放棄した者」の意義)

相続税法第3条第1項に規定する「相続を放棄した者」とは、民法第915条((相続の承認又は放棄をすべき期間))から第917条までに規定する期間内に同法第938条((相続の放棄の方式))の規定により家庭裁判所に申述して相続の放棄をした者(同法第919条第2項((相続の承認及び放棄の撤回及び取消し))の規定により放棄の取消しをした者を除く。)だけをいうのであって、正式に放棄の手続をとらないで事実上相続により財産を取得しなかったにとどまる者はこれに含まれないのであるから留意する。

相続税法基本通達13-1(相続を放棄した者等の債務控除)

相続を放棄した者及び相続権を失った者については、相続税法第13条の規定の適用はないのであるが、その者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、当該負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除しても差し支えないものとする。

相続税法基本通達14-1(確実な債務)

債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。

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